ゲームについて
フランスのRundiscが開発したパズルアドベンチャーです。ジャンル名だけだと何がなんだが分かりませんが、ざっくりいうと言語解読ゲームで、全く知らない言葉を話す世界に放り出されて、道端にある標識や、会話を聞いたりして、文字が何を指すのかを推測して解読しつつ、ちょっとした謎を追っていくゲームです。
きっかけ
Twitterで流れてきたか、おススメだったか忘れてしまったのですが、言語解読ゲームだっていうのを概要で知り、もともとそういうジャンルにとっても興味があった上、レビューでも非常に好評だったので、セール時に何も考えず買いました。
感想
約12時間でクリア!やー素晴らしかった!言語解読というゲーム性はもちろん100点満点、期せずしてストーリーも爽やかな読後感で素晴らしく、グラフィックも良い味を出していました。ギミックなどの誘導も丁寧で、何すればいいかわからないシーンはほぼありませんでした。ローカライズも全く問題なし。難易度もちょうどよく、詰まってしまいそうなシーンはほぼないと思います、本当に最悪は総当たりできるし。思ったよりもステルス要素が多かった点くらいかな、気になったのは。手放しに勧められる作品ですね!
・ストーリー
終盤までは、世界観についてちりばめられた謎はありつつも、そんなにはっきりしたストーリーはなかったように感じていました。もちろん、上の階層はどうなっているんだ?という点ではすごいわくわくさせられましたし、最上階にたどり着いたときの「えっ!?」感はすごかったです。笑上の階に行くほど、幸せってなんなんだろうなってなんだか考えられされました。
ただ、最上階にたどり着いてあそこの扉を開けてネタ晴らしされた後からは、「断絶せず、互いを分かろうとし、異なる人々と手を取り合う」というのがメッセージ、テーマなのかな、とはっきり感じられて、これまでは単純に興味本位で言語解読をしていたけど、それが異なる階層の人々をつなげる手段となったときに、なんだか嬉しくなりました。
このゲームでは、物理的な断絶と、認識的な断絶の二つがあるなと思いまして、問題なのは後者のほうですよね。後者は、例えば一番露骨なのが2階と3階、兵士は音楽なんて好きじゃないでしょ、馬鹿だよね、入らないで!っていうやつ。端末で翻訳してあげてここの誤解を解いてあげられたときは特に嬉しかったな。兵士が一番使命にとらわれているというか、自由がない感じがしたので。あと、音楽って非言語コミュニケーションなんですよね、そのおかげでいろんな階層を繋ぐ手段になっているのかなと思いました。あ、言葉のいらない「遊戯」もそうですね。
物理的な断絶は例えばモンスターが出たことによる3階と4階の断絶で、二つの階層はもともと兄弟だったという話もありますし、ここは予期せぬ事故で分断されたのかな?と考察しています。ここは兵士の強みを生かすことで脅威が排除され、「互いの良いところを尊重し、生かす」ことで手を取り合えているのがすごくいいなと思いました。
同じように、再序盤エリアの、「植物が枯れちゃうよ~」って言ってた人も、学者さんのおかげで無事たくさん生えて、よかったなあと思いました。こういう、ほっこりした温かい感情を得られる素敵なゲームでしたね。
あと、主人公まさかの人造人間オチは、結構びっくりしましたが最後に今までの演出を振り返るとなるほどな~と。初め地元なはずの起きた場所の言葉何にも知らないこととか。そんなやつでも最後に少年と絆が生まれててなんだかよかった。
ただ、最後の一個手前、洗脳マシンで幻覚バーゲンセール!のシーンは、こういう演出(世界がバグる系)は好きなので楽しませていただいたんですけど、ストーリー的にはこれ居る?って感じで、考察できてません笑。手を取り合えなかった未来・・ではないですよね。孤独の民のAI?的なアレの嫌がらせですよね。
他のサイトさんで、モンスターは孤独の民が変化したものっていう考察があって、でも確かに最後に兵士が捕まえて研究してる部屋には人に戻そうとする画がカンバスに書かれてたり、あと四階で扉を開く鍵の式を見つけた錬金術師がおそらくモンスターにやられたっぽいのは、孤独の民が孤独でなくなるのを拒絶したからなのかな?とか思いました。
・ゲーム部
架空言語ですが、それぞれが本当によくできていて、解読するのがただの暗号時ゲームではなくきちんと「言語」解読になっているのが特に面白かったポイントです。
例えばあたりまえですが、ちゃんと文法が違って、それぞれにルールがあるんですよね。例えば複数形。一階の人たちにはそもそも複数形を表す接頭語がなくて、「人々」を表したいときには人を2回重ねて使うしか表現方法がなく、またそれ以降の階層には、あるけど語順が違う場合があるとか(前に着けるか、後ろに着けるか)。接頭語って便利なんだな~~って、普段言葉をこうやって分解して感じることってなかなかないので、めちゃめちゃ面白い。あと、生活が違うと、性格が変わり、言語にもそれが反映されて、よく使う単語がまた変わってくるのも面白い。一見優雅なふるまいをする3階(遊ぶなんて単語がある)に、唯一罵倒語(愚かな)があるのが、なんだかすごい含蓄があるなと感じました。でも確かに、「美しさ」を愛するようになったということは、「醜さ」を嫌うようになったことでもあるよな~とか。あと吟遊民は自分のこと馬鹿にしてきたりだましてきたり性格が悪いイメージがあります(怒り)。笑あと文字の形も性質を表しているようで面白い。兵士は固い印象があるし、吟遊民はカリグラフィーっぽくて優雅な印象、学者さんはそのまま化学式っぽさみたいなのを感じます。孤独の民はものすごく古代な感じもしつつ、逆にデジタルな感じもする。
あと、会話や標識などからだけではなく、文字の形で意味が推測できるようになっているのが、本物の文字っぽくてすごく楽しかったです。象形文字の傾向が多いのでなおさらですね。例えば「動詞は四角いな(兵士)」とか、「匚のなかに文字が入っているから、中の文字と関連しているだろう(教徒)」とか、「壁画の絵の形が似ている文字がある(多数)」とか。そもそもの現実世界の私たちの普段使う文字たちの成り立ちも知りたくなりました。現実で言うと、海外旅行して、中国語のメニュー見て、全然わかんないけど魚偏だから魚のなんかだろ!とか推測できる時とかみたいな楽しさがある。
また、言語によっては複数の意味が1つの文字になっている場合もありますが、この「同じになり方」も、違いを表していて非常に興味深かったです。現実世界でも、例えばこれとこれ同じなの?とか、これわざわざわけるの?用途によって変えるの?っていう、例えば日本語では蝶と蛾は違いますがフランス語では同じとか、逆に日本語では牝牛と牡牛はメス・オスと牛で合体した単語ですが、英語ではcowとbullで、全く違う単語だったり、「運命」とかも、destinyとかfateとか、「復讐」もrevengeとかvengenceとかavengeとか。ほかにも、虹色が国によって何色あるのか違ったりとかしますが、こういうのって、人々が「分ける必要があるから」別単語になっているわけで、つまり物のとらえ方が人々によって違うのが言葉に反映されているんだと思うんですよね。私が好きなのは一階の教徒の単語の、"行く"と"上"と"大いなる"が同じになるのが、はじめこれに苦戦させられた(この三つを同じ単語に想像できなくてなかなかあてはめられなかった)んですけど、分かった後は面白いなと思いました。これ、母国語の違いで苦戦する箇所違いそうですね。面白いな。逆に、自分と他人を表す単語はどの階層にもあるのはもちろんですが、「死」はほぼすべての言語にあるのも、人という生き物である時点で皆死ぬのは共通なので、そこには違いが生まれないのも興味深いですね~。またEDで、すべての言語において、おそらく「最も大事なもの」にはすべて四面体で作られる図形が含まれているというのが表されていたのには感動しました。たぶんこの塔の人たちは異国の人々も入ってきてはいますが文化的にはきっと各階層で受け継がれていったものもあったと思うので、そういうところで語源を同じくするが意味が変わっていったもの、みたいな感じ伝わっていったのかな~とか考えるのが楽しいし、ほんとこのゲームの言語よくできてるなーって思います。
あと文法がしっかり違うのがとっても面白かったのですが、正直吟遊民のがいまだによくわかってないです笑目的語や動詞の順番がなんかいまいち理解できておりません。ただ、この「"私にとって"分かりやすい文法と分かりにくい文法がある」というのに気づいたとき、あたりまえですが私もある国のある言葉や文法を使う民であるんだなというのをなんだか強く実感しました。それぞれの階層でそれぞれの話だけ聞いてた時は、これはそんなに強く実感しなかったんですよね。各階層を比較して翻訳しようと思ったとき、読み解くのではなく半分自分で文章を作らないといけないため、この時初めて"文法"を強く意識したんだと思います。なので言語習得にはやっぱりアウトプットが大事なんだな、使う頭が全然違うんだな~というのも実感しました。
あと、孤独の民たちの言葉は、話されなくなって失われつつある、っていうのが、当たり前ですが言葉というのは使う人がいなくなると意味もわからなくなって伝わらなくなり消えてしまう儚いものなんだな、、というのを実感しました。現実でもありますよね。
・グラフィック
ゲーム性には全く影響していないが、このゲームらしさの半分くらいを占めていると思う、特徴的なグラフィック。どこをとってもポスターになるような、印象的な映像は、独特な空気感・雰囲気を作りだす一因となっていて、非常に良かったと思います。いちいち見とれていました。一階層は特に、砂漠の熱気、太陽の刺すような激しい光が、こんなにシンプルな映像なのにはっきりと感じられて、本当に表現力がすごいな~と思います。流石フランス。
・好きな人々
一階層の、音楽に合わせて揺れているこの人が好きです。「音楽」を教えてくれた人でもあります。一階層ははじまりの地であることもあってなんだか人々にちょっとだけ思い入れがあります。
二階層はここのジョークを言う二人が印象に残っていて、はじめ何言っているかわからないときはなにわろてんねんってなったんですけど、単語が半分くらい分かった段階で何言っているか大体わかって、完全に理解してからは一緒にガハハって笑ってました。この経験で、ジョークって、共通概念や言葉があることで初めて成立するんだなってのが、実感として得られたのが面白かったですね。
三階ではこの二人がゴキゲンで好きでした。何言っているかわからない段階でもまあ楽しいこと言ってんだろうなって大体イメージできたし実際そうだったので、なんか言葉が分からなくてもわかる事ってあるんだな~ってしみじみしました。
まとめ
あらゆる面で非常によくまとまった、お手本のようなゲームでした。ゲームでほしい栄養素が大体摂取でき、大変ありがたかった。「言語解読」という面白さを、難しくなりすぎず手軽に楽しめるので言語解読に興味がない人にも、あらゆる人にやってほしい。沼に引きずり込みたい。とってもいいゲームでした。製作者の方々に感謝!
あと、製作者の方のインタビューがあったのですが、影響を受けたゲームにOuter WildsとReturn of the Obra Dinnがあり納得。特にeturn of the Obra Dinnは非常~に得られる栄養素が似ているゲームだなと感じていたので。どちらも、知識欲、知りたいという好奇心に純粋に突き動かされるゲームですよね。あと、知らなかったものを知ることでフィールドの情報の解像度が上がっていく楽しさ。このゲームもその好奇心を大いに刺激してくれました。