感想置き場

いろいろと感想を残します

ファミレスを享受せよをクリアしました(ネタバレあり感想)

ゲームについて

2023年に発売された(元となるitch.io版は2022年のようです)、おいし水さんによるファミレスを舞台にしたアドベンチャーゲーム。なんとドリンクバーもあります。

store.steampowered.com

きっかけ

どこで見かけたか忘れてしまったのですが、タイトルが印象的でずっと覚えてて、いつかやってみたいなーと思っていました。セールで買って、ふと思い立ってプレイ。

感想

全体(ストーリー)

約2時間でクリア。なんとも不思議な読後感でした。分かりやすく爽やかな感じでも、めちゃくちゃ感動的な感じでもなく...表現が難しいのですが、じんわり、ほんのりと暖かさが心に残る感じだったかなと思います。

プレイをはじめる前は、独特のタイトルや、ストアページ初めにある説明のセリフ回しと説明のなさ(なあ君、ファミレスを享受せよ。 月は満ちに満ちているし ドリンクバーだってあるんだ。)から、全編ずっと詩的な言い回しで具体的にわからない感じで話が進む感じなのかなと思っていました。実際に始めてみると、思ったよりもみんなかなり常識的というか、浮世離れしていない...いや、ある種浮世離れはしているのですが、何を言っているのか汲み取れないみたいな掴みどころのない会話ではなく、しっかりと会話している感がある感じで、勝手に安心しました。笑

しかし、分かりやすいからといってその詩的なセンスが損なわれているわけではまったくなく、いいなあと思うセリフがたくさんありました。このゲームをこのゲームたらしめている要素として、セリフ回しはかなりを占めていると思います。ドリンクバーのドリンクの名前も独特ながら焦がれるような魅力があります。私が好きな名前はガラスシロップ。第一のスープの好奇心くすぐられる感じも捨て難いですね。

もう一つ特徴的だなと思ったのが、ゆるい空気。万単位の時間が過ぎているのに焦りとかゼロなのがいいですね。そういう精神錯乱のフェーズはガラスパンさんが過去に乗り越えたってのもありますが。

一個だけ、どの話題を選んでいるのかっていう枠が見づらかったのと、もう一回した話題にはマークとかつけてくれたらUIがもうちょっと便利だったかな~と思いました。

ちょっとトピック別に。

・16桁総当たり

まさかマジで総当たりするとは...ゲームなんだから、何かしら手がかりはあるだろう。えっ、マジでない感じ...?って悟る流れが上手くできてるな〜と思いました。総当たりこそが適切な方法なのかも、というセロニカのセリフには妙に説得力を感じたな。あのシーン、見返したら約6分もありました。曲も相まってああーー終わらねーーー感を非常によく実感できましたね。合間合間にみんながちょこっと話しかけてくるのもイイ。ついに開いた時、ついに開いたことにも、何十万年も経ってることにも、みんなのリアクションが大してデカくないこととか、おかえりーって迎えてくれるところに、このゲームの空気感を感じます。死ぬほど時間経ってるのに悲壮感がないところが。このエピソードで一番ヤバみを感じたのは主人公(ラーゼ)かな。16桁の総当たりをやり遂げた時点でまともではないかもしれませんねってセロニカも言うし。

 

・間違い探し

最後のページで嫌な汗かきましたよね。ああ、間違いって、何が違うのかというの認識を同じくするものの間でしか成り立たないんだなっていうのを思い知らされて、間違い探しというものを使って明示的に説明せずとも間接的にそれを感じさせるストーリーテリングが上手いな〜と思いました。この世のものってあらかじめ分けられているものなんてなくて、人間が勝手に分けてるだけですからね。その基準は人間だけのものです...

音楽

メインテーマ的な"過去を照らす月"のフレーズは妙に頭に残ります。切ないんだか、寂しいんだか、なんともまた一口では言い表せない雰囲気が...あと、フライ・ミー・トゥー・ザ・レストランも好きです。音色がシンプルなところも、この作品の雰囲気構成に一役買っている感じがしますね。

あと、効果音も好きです。話題を選んだ時とかのなんかあの…ファミレスっぽい…ガラスのカトラリーみたいな音。気持ちいいです。

アート

色はほぼ黄色と青だけ、線はドットで描かれているアートスタイルは独特な空気感を醸し出しており、温かくもなく冷たくもない、ただひたすら時間が流れていく感じをより際立たせてくれていると感じます。

あと、画面が真四角なのが特徴的で、人間の視野ってたぶん集中してクリアに見えている部分ってほぼ中央しかなくて、左右はなんとなくしか見えてないので、横長でないからといってあまり窮屈さは感じず、むしろ没入感すらありました。

キャラ雑感

セロニカ

かわいい

話が分かるタイプの人だってめちゃくちゃ安心したし、絵画の裏になんかないのか探ってみたりとかそういう私が思いつくようなアプローチはすでに色々試していて、自分の感覚に近い人だなってなりました。あと、本が読みたい、ランダムに生成された文字列の本じゃなくて、っていう発想とかがなんかすごく、なんかSFとかADV好きそうっていうか、う~んなんていえばいいんでしょう、ランダムに生成された文字列という発想が出てくるのがなんかフィクション好きそうだなって妙に感じました。ただ、首を刺そうとしたのはちょっとビビりました笑。でも異常な状況では正気と狂気は逆転する、というセリフには妙に納得させられました。

アンニュイな顔とつかず離れずの空気感が好きです。ただ、ツェネズはちょっと怖がっていて、何かを追求されているというか、責められているように感じる、優秀な人がもっている残酷さみたいなのを感じます、と話します。私はあんまりこれはセロニカには感じませんでしたが、ツェネズの言っていることはなんとなくわかりまして、気の毒な気持ちになりました。ただ自分が勝手に劣等感を感じているだけなんですけど、そういう人といるとみじめになってくるというか…

主人公が総当たりやってるときに、TRPGつくったんです、途中参加もできるようにしているので、よかったらどうぞ、って言ってくれるのが優しい…ってなりました。まじめな子ですよね。だからこそ処刑人に選ばれたんだと思いますが、それが身を追い詰めてしまったという気の毒な人…。最後END2でも、月の法について提案が、と発言するやいなや、ほかの人たちの返答を待たずに「公私混同かな…」って言っちゃうところよ。でも、それに対して、ほかの人たちが「理想も目的もなしに処刑人を続けるのは難しい」「意思を示し、勝利を勝ち取るのです」と、無条件で賛成するのではなく、真正面からその意思を受け止めようとする姿勢を示すその誠意ある態度に、良かったな~、セロニカ頑張れ!と爽やかな気持ちになりました。苦労を分かち合える友達がもっと増えたらいいのにな。でも、月の人たちはもう全員知り合いだから関係性が変わることはあまりないだろうし、地球の人たちは定命だからな…さみしいな…

どうでもいいですが、個人的には髪の毛は濃いオレンジ色と勝手にイメージしています。

ガラスパン

"めちゃ"に笑う

不思議な名前だなというのが初めの印象。でも中身は普通のけだるめお姉さんで安心した。ガラスパンさんのラーゼに対するリアクションが好きなんですよね。例えば、ムーンパレスから帰りたい?帰らなければ試験もないんだよ、っていうガラスパンに対して、試験は受けることそのものに意義があるというか...という返事をラーゼはするのですが、これに「まっすぐだ…」「眩しっ…」とか、ラーゼの資格試験が趣味だとわかったときに「こわ……」ってリアクションするのとか。一番最後の新しい友達もできたしね、に対してラーゼがそうだね!!って大きな声で返事した時「うわっ急に声でかっ…」とか。なんか笑っちゃうんですよね、見た目なんか結構おしとやかなお姉さんぽいのにリアクションがめちゃフランクっていうかダウナーっていうか笑

あともう一つ好きなのが、ラテラとの思い出シーン。

「ラテラ、あなたは適当すぎる…」

「でも、それこそあなたに欠けているものなのよ」

「適当でいいでしょ」

「衝撃的かもしれないけど…」

「あなたが一生懸命大事にしている」

「退屈だとか憂鬱って感情にはなんの意味もないんだよ」

私も考え込んで憂鬱になることが多いので、この会話にはなんか救われました。この後の「いいこと言うね…」「君は大統領になるべきだ」「そう、その調子だね」って会話も好きです。

スパイク王

お忍び

初対面では、王の面前にいるのだぞ、ってところから、なんてな、冗談だ、はっはっはっ…ってところであ~好きってなりました。器の大きさと責務への態度と包み込むような優しさと人さじのおちゃめさがもう…王!!って感じでほんと好き。

話すことなくなってきたなあってあたりで、話題がなくなって死んだ男の話をして、そのあと「無理に話す必要はないのだぞ」「誰かと過ごすために話題が必要なわけでもないし 別に誰かと過ごす必要もないのだ」って言ってくれるのが、決して捨て鉢になったりやけくそになっているわけではなく、ただただ、何をしても大丈夫だよ、と、自身の存在を、どんな在り方でも寄り添ってくれていて、嬉しいし優しいなぁと心からしみじみ思いました。一方で、その後に「別に一人で時間を潰す必要はないのだぞ」とも言ってくれて。突き放すわけではなくいつでもそばにいるよとも言ってくれるのがもうホント優しい…

またしてもどうでもいいですが、個人的にはほぼ白だけど薄ーい黄緑がかったグレーみたいな髪色を想像しています。

ツェネズ

想像通りの見た目だった

ずっと部屋にこもっていて怪しげだけど、悪い人ではないんだろうなって感じだった。初めて話しかけたのがこの子だったかなあ~。

計器に対して、「どんなに長くても永遠ではない、終わって終えば過ぎた時間は厚みを失っている」っていうのが、不死だ、ってなんかなりました。ガラスパンは「正確に時間を示すものがないことが唯一の救いだったのに」と、真逆のかなり辛そうな態度をとるので。

変わろうと努力してるのが偉いですよね。やったことないことにチャレンジするのマジで尊敬する。それに、慮ってくれて、責任だけは私がとるよと言ってくれた先輩に、私を尊重してくれてありがとうっていうのがイイですよね。

この子は一眼見た時から完全に脳内でピンク髪でした。

ラーゼ

話題について、ずいぶんずけずけ行くんだねって相手キャラから言われた時、ゲームだからあんまり相手のキャラクターに対して申し訳ないけどあまり人として考えてなくて、キャラクターとしてみてたので、相手のことについて根掘り葉掘り聞こうとするのは普通の会話じゃ確かにないなと思ってなんだかハッとさせられました。確かにめちゃくちゃずけずけいくよな。

最後の最後、ガラスパンとの会話で、セロニカとツェネズについて、元気でいてほしい。ほんとうにそれだけ...っていうのが、なんだか好きです。本当にそうですよね、どんな人も、元気でいてほしい...ただそれだけ...

まとめ

アートと音楽はともに唯一無二の雰囲気を醸し出しており、なんとも言えない、あたたかさと爽やかさが共存した読後感でした。キャラクターたちのつかずはなれずの距離感も心地よかったな。製作者様に感謝!